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No.572026.01.20

地金(ジキン)— 尾張の空に舞う「孔雀」。様式美の極致が描く、一途な光。

金魚の美しさを語る時、これほどまでに「研ぎ澄まされた型」を持つ品種は他にないかもしれません。愛知県の天然記念物にも指定されている「地金」。後ろから見た時にアルファベットの「X」の形に広がるその尾ひれは、見る人を一瞬で高潔な世界へと誘います。Juane * です。こんにちは。

今日は、一分の隙もない様式美の中に宿る、写真の金魚「地金」の静かなる情熱についてお話しします。

四方に開く、誇り高き「孔雀尾」

地金の最大の特徴は、なんといっても「孔雀尾」と呼ばれるその尾ひれです。通常、金魚の尾は後ろへ流れるように泳ぎますが、地金の尾は体に対して垂直に、四方へ力強く張り出しています。その姿は、まさに羽を広げた孔雀のような美しさ。

この独特の造形は、限られた空間でいかに自分を「大きく、美しく」見せるかという、日本の伝統的な空間美学の結晶とも言えます。水流に逆らわず、自らの型を崩さずに静止するその一瞬。そこには、静寂の中に潜む圧倒的な力強さが宿っています。

「六鱗」という、純粋への意志

地金には、もう一つ守り抜かれてきた約束事があります。それは「六鱗(ろくりん)」と呼ばれる配色です。体は透き通るような白銀。そして、口先、背ひれ、胸ひれ、腹ひれ、尻ひれ、尾ひれの「六箇所」だけが、鮮やかな紅に染まっていること。

この清廉な紅白の対比は、見る者の心まで洗うような潔さを感じさせます。余計なものを一切削ぎ落とし、本質的な輝きだけを際立たせる。その厳格な美意識は、一途に理想を追い求める「意志の力」そのもののように思えます。

「理想の自分」を描き続ける勇気

私たちは皆、自分自身の人生を描く「アーティスト」であると思います。地金がその伝統的な型を守り、究極の美しさを体現し続ける姿は、私たちに「自分の理想を信じ、一歩ずつその形に近づけていく勇気」を届けてくれます。

迷いなく自分の色を掲げ、凛として泳ぐ。その姿に、私たちは自立した命の尊さを教わります。自分に与えられた形を否定せず、その中で最高に美しくあろうとする。地金の造形は、そんな「自己変革」の美学を水の中に映し出しているようです。

水底に刻まれる、至高の様式美

地金を見つめていると、美しさとは、積み重ねられた時間と深い愛情の結果なのだと実感します。尾張の地で大切に繋がれてきた、この至高の美。水の中に広がる「孔雀」の舞い。その一筋のひれの動き、一点の紅。 そこにある「祈り」に似た静かな情熱を、これからも言葉を通して大切に伝えていきたい。地金という名の、揺るぎない日本の美学を、これからも敬意を持って見守り続けていきます。

【参考資料】

品種の成立と由来 : 文政年間(1820年頃)に、尾張藩(現在の愛知県)の武士や豪農の間で琉金をベースに改良されたと言われています。1958年に愛知県の天然記念物に指定されました。

孔雀尾(くじゃくお)の構造 : 尾ひれの付け根が体軸に対して直角に立ち、左右に大きく開いた「平付け」の四つ尾です。真後ろから見ると「X」字型に見えるのが理想とされます。

配色の伝統(六鱗): 口、各ひれ、尾の計6箇所に赤が残る「六鱗」のパターンは、地金の完成形とされる最も格式高い配色です。人工調色によってこの模様を作り出す技術も含めて、伝統文化として継承されています。