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No.1132026.02.09

中国・宋の時代とは?金魚が生まれた時代背景を解説

# 中国・宋の時代とは?金魚が生まれた時代背景を解説

ここまで、生物学的な視点から金魚の誕生を見てきました。フナという魚、突然変異、色素細胞...科学的な話が続きましたね。

でも、金魚が生まれたのは、生物学だけの話じゃありません。

時代背景が大きく関わっているんです。

金魚が最初に飼育されたのは、中国の「宋の時代」と言われています。でも、「宋の時代」って、一体どんな時代だったんでしょう?

今回は、ちょっと歴史の話。金魚が生まれた時代の中国を覗いてみましょう。

宋の時代っていつ?

北宋と南宋:300年以上続いた王朝

宋(そう)は、960年から1279年まで続いた中国の王朝です。

日本でいうと、平安時代の中期から鎌倉時代の中期まで。かなり長い期間ですね。

宋は大きく二つの時期に分かれます:

北宋(960年〜1127年)

- 首都:開封(カイフォン)

- 北方に位置する都市

- 約170年間

南宋(1127年〜1279年)

- 首都:臨安(杭州)

- 南方に移った

- 約150年間

なぜ南に移ったかというと、北方の遊牧民族(女真族)に攻められて、首都を追われたからです。でも、南に移った後も、宋の文化は衰えるどころか、さらに花開きました。

金魚が生まれたのは南宋期

金魚が観賞魚として飼育され始めたのは、主に南宋の時代だと考えられています。

12世紀から13世紀、つまり1100年代〜1200年代ですね。

首都の臨安(今の杭州)周辺。長江流域の温暖で水の豊かな地域です。

宋の時代は「経済の黄金時代」

空前の経済発展

宋の時代、中国経済は驚異的な発展を遂げました。

経済規模の拡大:

- 農業生産が大幅に増加

- 商業が活発化

- 手工業が発達

- 世界で最も豊かな国の一つに

具体的な数字を見ると、すごさがわかります。

宋代の人口:

- 北宋初期:約6000万人

- 南宋期:1億人を超える

当時の世界人口が3億人くらいだったと言われているので、中国だけで世界の3分の1!

人口が増えたということは、食料が豊富で、社会が安定していた証拠です。

なぜこんなに発展したのか

宋が繁栄した理由はいくつかあります。

1. 農業技術の革新

- 占城稲(早稲品種)の導入

- 二期作の普及

- 灌漑技術の向上

2. 商業の自由化

- 市場経済が発達

- 民間商業の活性化

- 都市の自由な経済活動

3. 紙幣の発明

- 世界初の紙幣「交子」

- 取引が便利に

- 経済活動が加速

4. 海上貿易の発展

- 造船技術の進歩

- 羅針盤の実用化

- 東南アジア、インド、中東との貿易

豊かな社会には、余裕が生まれます。そして余裕が、文化を育てるんですね。

都市文化の発展

巨大都市の出現

宋の時代、中国には世界でも類を見ない大都市がありました。

開封(北宋の首都):

- 人口100万人を超える

- 当時、世界最大の都市

- 繁華街、歓楽街が発達

臨安(南宋の首都、今の杭州):

- 人口100万人以上

- 商業都市として繁栄

- 「地上の楽園」と呼ばれた

ちなみに、当時のヨーロッパの都市は、大きくても数万人規模。ロンドンやパリでさえ、まだ小さな町でした。

市民文化の誕生

大都市には、様々な人が集まります。

役人、商人、職人、学者、芸術家...そして、裕福な市民たち。

宋の時代の特徴は、庶民にも文化が広がったことです。

市民が楽しんだ文化:

- 茶館(喫茶店)

- 酒楼(料理屋)

- 劇場(演劇、音楽)

- 書店(印刷技術の発達)

- 市場(あらゆる商品)

そして、庭園

裕福な商人や役人は、自分の家に庭園を作りました。小さな池を作り、植物を植え、石を配置する。そこで詩を詠み、友人と語らう。

この庭園文化が、金魚飼育の土台になっていくんです。

文化的成熟:芸術と学問

文人文化の全盛期

宋の時代は、文人(知識人)の文化が花開いた時代でもあります。

文人とは:

- 科挙試験に合格した官僚

- 詩文、書、画に優れた人々

- 学問と芸術を重んじる

宋代の文人は、ただの役人ではありませんでした。芸術家であり、哲学者でもあったんです。

代表的な文人:

- 蘇軾(そしょく):詩人、書家、画家

- 欧陽脩(おうようしゅう):歴史家、詩人

- 王安石(おうあんせき):政治家、文学者

- 朱熹(しゅき):哲学者、儒学者

彼らは自然を愛し、美を追求し、その思想を芸術で表現しました。

芸術の洗練

宋代の芸術的成就:

1. 絵画

- 山水画の完成

- 花鳥画の発展

- 写実と精神性の融合

2. 書道

- 個性的な書風

- 芸術としての書の確立

3. 陶磁器

- 青磁、白磁の完成

- 世界的名品の誕生

4. 文学

- 詞(詩の一種)の発展

- 散文の洗練

この芸術的成熟が、「美しいものを愛でる心」を育てました。

赤いフナを見つけた時、「珍しい、美しい」と感じる感性。これは、この文化的土壌があってこそです。

観賞文化の発達

盆栽と盆景

宋の時代、もう一つ重要な文化が発展していました。

盆栽盆景です。

盆景(ぼんけい):

- 小さな鉢の中に、山水の景色を再現

- 岩、植物、水を配置

- ミニチュアの自然

これ、金魚鉢の文化と似てませんか?

小さな器の中に、自然の美を閉じ込めて楽しむ。この感覚が、金魚飼育にもつながっていくんです。

花卉栽培の流行

植物を育てて楽しむ文化も、宋代に大きく発展しました。

人気があった植物:

- 牡丹:富貴の象徴

- 梅:清廉の象徴

- 菊:高潔の象徴

- 蓮:清浄の象徴

珍しい品種、美しい色、独特の形...人々は植物の変異を探し、育て、鑑賞しました。

この「珍しいものを探す」「美しいものを育てる」という文化。これが金魚にも向かったんですね。

仏教文化と放生の思想

仏教の影響

宋の時代、仏教は社会に深く根付いていました。

特に禅宗が発展し、文人たちにも大きな影響を与えました。

仏教の教えの中に、不殺生(ふせっしょう)という考えがあります。生き物を殺してはいけない、という教えです。

放生(ほうじょう)の習慣

この不殺生の思想から、放生(ほうじょう)という習慣が生まれました。

放生とは:

- 捕らえられた生き物を自然に帰すこと

- 命を救う善行

- 功徳を積む行為

寺院の境内に放生池という池を作り、そこに魚や亀を放ちます。天敵がいない安全な場所で、生き物を保護するんです。

放生池が金魚を育てた

この放生池が、金魚の誕生に重要な役割を果たしました。

放生池の特徴:

- 天敵がいない

- 定期的に餌が与えられる

- 人々が頻繁に訪れて観察する

- 珍しい個体も保護される

赤いフナが生まれても、自然界ならすぐに食べられてしまいます。でも放生池なら、生き延びることができる。

そして、参拝に来た人々が「あ、赤い魚がいる!」と気づく。

こうして、赤いフナは発見され、大切にされるようになったんです。

なぜ宋の時代だったのか

ここまで見てきて、わかることがあります。

金魚が宋の時代に生まれたのは、偶然じゃなかったんです。

金魚誕生の必要条件:

1. 経済的余裕

- 趣味に時間とお金を使える

- 観賞魚を飼育する余裕

2. 都市文化

- 庭園文化の発達

- 観賞文化の成熟

3. 芸術的感性

- 美しいものを愛でる心

- 珍しいものへの関心

4. 仏教思想

- 放生池という保護環境

- 生き物を大切にする心

5. 技術的基盤

- 陶磁器産業(器が作れる)

- 養魚の知識

これら全てが揃った場所と時代。それが、宋代の中国だったんです。

南宋の臨安:金魚の故郷

杭州という街

南宋の首都・臨安は、今の杭州です。

杭州は今でも、美しい湖と庭園で有名な観光都市。「地上の楽園」と呼ばれた当時の面影が、今も残っています。

杭州の特徴:

- 西湖という美しい湖

- 温暖な気候

- 豊富な水

- 長江流域の肥沃な土地

フナが住むには最適の環境。そして、人々が観賞魚を楽しむには最適の文化。

文献に残る記録

南宋の時代、金魚に関する記録が文献に登場し始めます。

詩に詠まれ、絵に描かれ、随筆に記録される。「珍しい赤い魚」から、「金魚」という存在として認識されていく。

次回は、この南宋の時代に、金魚がどのように宮廷や富裕層に広まっていったのか、具体的な話を見ていきます。

まとめ:時代が金魚を生んだ

金魚の誕生は、単なる生物学的な偶然ではありませんでした。

宋という時代の:

- 経済的繁栄

- 都市文化の成熟

- 芸術的洗練

- 観賞文化の発達

- 仏教思想の浸透

これら全てが組み合わさって、初めて金魚という文化が生まれたんです。

違う時代、違う場所だったら、赤いフナは誰にも気づかれず、消えていたかもしれません。

でも、たまたま宋代の中国で生まれた。だから、千年以上経った今も、私たちは金魚を楽しめるんですね。

参考資料

本記事の執筆にあたり、以下の文献・資料を参考にしました。

宋代の歴史・社会

1. Kuhn, D. (2009). "The Age of Confucian Rule: The Song Transformation of China." *Harvard University Press*.

- 宋代中国の社会変革に関する包括的研究

2. Gernet, J. (1962). "Daily Life in China on the Eve of the Mongol Invasion, 1250-1276." *Stanford University Press*.

- 南宋末期の日常生活の詳細な記述

3. Ebrey, P.B. (1999). "The Cambridge Illustrated History of China." *Cambridge University Press*.

- 中国史の視覚的資料を含む総合的解説

4. 宮崎市定 (1997). 『宋代の社会と文化』平凡社

- 宋代社会の構造と文化的特徴

宋代の経済・都市

5. Shiba, Y. (1970). "Commerce and Society in Sung China." *University of Michigan Press*.

- 宋代の商業と社会構造の研究

6. Hartwell, R. (1982). "Demographic, Political, and Social Transformations of China, 750-1550." *Harvard Journal of Asiatic Studies*, 42(2), 365-442.

- 宋代の人口動態と社会変容

7. 斯波義信 (2002). 『宋代商業史研究』汲古書院

- 宋代商業の詳細な研究

宋代の文化・芸術

8. Murck, A., & Fong, W.C. (1991). "Words and Images: Chinese Poetry, Calligraphy, and Painting." *Princeton University Press*.

- 宋代の詩・書・画の関係性

9. Bush, S., & Shih, H. (2012). "Early Chinese Texts on Painting." *Harvard University Press*.

- 宋代の絵画理論と美学

10. 小川裕充 (2009). 『宋元絵画史研究』中央公論美術出版

- 宋代絵画の歴史的研究

仏教と放生文化

11. Smith, P.J. (1998). "Taxing Heaven's Storehouse: Horses, Bureaucrats, and the Destruction of the Sichuan Tea Industry, 1074-1224." *Harvard University Press*.

- 宋代の仏教と社会の関係

12. 荒木見悟 (1992). 『仏教と儒教』平楽寺書店

- 宋代における仏教思想の影響

金魚の歴史

13. 陳橋驛 (1999). 『中国金魚文化史』(中国語)

- 中国における金魚文化の歴史的変遷

14. 松井佳一 (1992). 『金魚の科学』恒星社厚生閣

- 金魚の起源と宋代の背景

15. 吉田信行 (2015). 『金魚の教科書』誠文堂新光社

- 金魚の歴史と文化的背景

注記: 本記事は一般読者向けのエッセイであり、歴史学の専門論文ではありません。宋代の複雑な歴史をわかりやすく説明するため、一部簡略化している部分があります。

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