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No.1102026.02.09

金魚の祖先は中国のフナ!ギンブナとキンブナの違いと分布

# 金魚の祖先は中国のフナ!ギンブナとキンブナの違いと分布

前回、金魚の祖先が地味なフナだったことをお話ししました。でも実は「フナ」って、一種類じゃないんです。

日本にもフナはいるのに、なぜ中国で金魚が生まれて、日本では生まれなかったのか。その謎を解くカギは、「どのフナが祖先だったか」にあります。

今回は、フナの種類と分布、そして金魚の本当のルーツに迫ります。

フナは世界中にいる魚

東アジアからヨーロッパまで

フナって、実は結構グローバルな魚なんです。

もともとは 東アジア原産 。中国全土、朝鮮半島、日本列島、ロシアの極東部に広く分布しています。さらに、人間の手によってヨーロッパにも持ち込まれて、今ではイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、東欧諸国にまで野生化して定着しているんです。

この適応力の高さ、すごいですよね。どこへ行っても生き延びてしまう。

日本のフナは身近な存在

日本では、フナは本当に身近な魚です。

川の緩やかな流れ、湖や池、水田の用水路、公園の池、お堀...水があればだいたいどこにでもいます。子どもの頃、網ですくった経験がある人も多いんじゃないでしょうか。

でも、このフナ、よく見ると何種類かいるんですよ。

日本に生息するフナの種類

ギンブナ:最も一般的なフナ

日本で一番よく見かけるのが ギンブナ です。

名前の通り、体が銀白色っぽくキラキラしています。体高(体の高さ)がやや高めで、ずんぐりした印象。日本全国どこにでもいて、都市部の池でも平気で暮らしています。

そして、ギンブナには驚くべき特徴があります。

メスだけで子どもを産める んです。

これを「単為生殖」とか「クローン繁殖」と言います。オスがいなくても、メスだけで自分のコピーを作れる。だから爆発的に増えるんですね。

ただし、遺伝的にはほぼ同じクローンなので、多様性は低い。これが後で重要になってきます。

キンブナ:日本固有のフナ

キンブナ は日本にしかいない固有種です。

ギンブナより少し黄金色っぽい体色で、体型もスリムです。名前の「キン(金)」は、この色から来ています。

キンブナは普通に、オスとメスがいて繁殖します。だから遺伝的な多様性が高い。

でも...実は、キンブナは減少傾向にあるんです。ギンブナに押されて、生息地を失っているんですね。地域によっては絶滅危惧種に指定されているところもあります。

ゲンゴロウブナ(ヘラブナ):釣り人に人気

ゲンゴロウブナ は、別名ヘラブナとも呼ばれます。

琵琶湖原産のフナで、特徴は 体高がものすごく高い こと。横から見ると、丸っこい感じです。頭が小さくて、額がちょっと張り出している独特の形。

釣りの対象魚として人気があって、全国の湖沼に移植されました。食用というより、釣って楽しむ魚ですね。

体高が高いところは、一部の金魚品種(らんちゅうとか)に似ていますが、ゲンゴロウブナは金魚の直接の祖先ではありません。

その他の日本のフナ

他にも、琵琶湖には ニゴロブナ という固有種がいます。鮒寿司の材料として珍重される、小型のフナです。

ナガブナ という細長いフナもいますが、これはギンブナの一型という説もあって、分類が難しいところです。

金魚の直接の祖先はどのフナか

長年の謎だった金魚のルーツ

「金魚の祖先はフナ」とは昔から言われていました。でも、具体的にどのフナなのかは、長い間はっきりしなかったんです。

昔の説:

「キンブナ」が祖先だという説が有力でした。だって、「キン」ブナと「キン」魚で、名前が似てるじゃないですか。

でも、これは間違いでした。

DNA解析が明らかにした真実

現代の遺伝学研究、特に DNA解析 によって、真実が明らかになりました。

金魚のDNAを調べると、 ギンブナに極めて近い ことがわかったんです。特に、ミトコンドリアDNA(母系遺伝するDNA)の系統解析で確認されています。

ただし、完全に同一ではない。金魚は長い飼育の歴史の中で、いくつかの異なるフナの系統が交雑した可能性もあります。

中国原産のフナが金魚の祖先

重要なのは、 日本のフナではなく、中国原産のフナ が金魚の祖先だということです。

中国にもギンブナに近い種がいて、そのフナが金魚のもとになったと考えられています。

中国のフナ:金魚発祥の地

長江流域のフナ

金魚が最初に飼育されたのは、中国の 長江流域 (揚子江)だと言われています。

中国南東部、温暖で水が豊富な地域です。古くから農業や養魚文化が発達していました。

この地域のフナには、いくつかの特徴があります:

- 繁殖力が旺盛

- 水温の適応範囲が広い

- 遺伝的な変異が現れやすかった

中国の古文献に記録された色変わりフナ

中国の古い文献には、様々な色のフナが記録されています。

赤色、金色、白色、まだら模様...自然界で時々現れる、こうした色の変わったフナを、人々は「珍しい」「美しい」と感じて、大切に飼い始めたんです。

これが金魚の始まりでした。

なぜ日本では金魚が生まれなかったのか

日本にもフナがいたのに、なぜ日本で金魚は生まれなかったんでしょうか?

私もずっと疑問に思っていました。

理由1:フナの種類が違った

まず、 フナの種類 が違います。

日本のフナ(特にキンブナ)と、中国のフナは、遺伝的に異なる種です。色の変異が現れる確率や、変異の種類が違った可能性があります。

さらに、日本で最も多いギンブナは クローン繁殖 。遺伝的多様性が低いので、色の変異が現れにくいんです。

理由2:文化的背景の違い

文化的な背景 も大きいです。

中国では、宋の時代(960年〜1279年)に観賞魚文化が花開きました。経済的にも文化的にも繁栄していた時期で、富裕層が庭園で美しい魚を飼うことが流行したんです。

一方、日本の同時期(平安時代末期〜鎌倉時代)は、政治的に不安定でした。観賞魚に注目が集まるような余裕は、あまりなかったんですね。

理由3:仏教の放生池文化

中国では、仏教の「放生池」文化が金魚の発展に大きく貢献しました。

寺院の池で生き物を保護する習慣があり、色の変わったフナも天敵から守られて生き延びることができた。人々が定期的に観察する環境も整っていました。

日本にも放生池はありましたが、フナの色変異に注目が集まるほどではなかったようです。

理由4:タイミングと偶然

結局のところ、金魚の誕生には タイミングと偶然 の要素も大きかったんだと思います。

適切な種類のフナ、文化的な土壌、経済的な余裕、仏教思想...これらが全部揃った場所が、たまたま中国の長江流域だった。

日本では、条件が揃わなかった。ただそれだけなのかもしれません。

日本に金魚が伝来してから

室町時代の伝来

金魚が日本に伝わったのは、 室町時代 (15世紀頃)と言われています。

中国との貿易を通じて、堺や博多に持ち込まれたのでしょう。当時は非常に珍しく、高価なものでした。

江戸時代に独自の発展

でも、日本に来てからの金魚の発展は目覚ましいものがありました。

江戸時代になると、日本独自の品種改良が盛んになります。らんちゅう、地金、土佐金...日本でしか生まれなかった品種がたくさん作られました。

日本人の美意識、技術力、そして情熱が、金魚文化を新たな高みへと押し上げたんです。

金魚は中国で生まれましたが、日本で大きく花開いた。そう言ってもいいかもしれません。

まとめ:金魚の祖先は中国のギンブナ系統

ここまでの話をまとめると:

1. 金魚の祖先は中国原産のギンブナ系統

2. 日本のフナとは種が異なる

3. 長江流域という地理的条件が重要だった

4. 文化的・社会的な背景も金魚誕生に不可欠

5. 日本では金魚は生まれなかったが、伝来後に独自発展

フナという一つの魚から、これだけ多様な物語が生まれるんですね。

次回は、なぜフナに赤い個体が生まれるのか、「突然変異」のメカニズムについて、生物学的に詳しく見ていきます。

参考資料

本記事の執筆にあたり、以下の文献・資料を参考にしました。

学術論文・書籍

1. Komiyama, T., et al. (2009). "Genetic diversity and origin of goldfish (*Carassius auratus*) inferred from mitochondrial DNA." * Gene *, 430(1 - 2), 5 - 11.

- ミトコンドリアDNA解析による金魚の起源研究

2. Takada, M., et al. (2010). "Biogeography and evolution of the *Carassius auratus*-complex in East Asia." * BMC Evolutionary Biology *, 10(7).

- 東アジアにおけるフナ類の生物地理学的研究

3. Zhou, J., et al. (2003). "Genetic divergence between *Carassius auratus auratus* and *Carassius auratus gibelio* as revealed by mitochondrial DNA analysis." * Journal of Fish Biology *, 63(5), 1 - 11.

- フナ類の遺伝的分化に関する研究

4. 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 編(2001). 『日本の淡水魚 第3版』山と溪谷社

- 日本産フナ類の詳細な分類と生態

5. 中村守純(1969). 『日本のコイ科魚類』資源科学研究所

- フナ属の分類学的研究の基礎文献

金魚の歴史・文化

6. 松井佳一(1992). 『金魚の科学』恒星社厚生閣

- 金魚の起源と中国での発展史

7. 陳橋驛(1999). 『中国金魚文化史』(中国語)

- 中国における金魚文化の歴史的変遷

8. 吉田信行(2015). 『金魚の教科書』誠文堂新光社

- 金魚の日本伝来と発展の歴史

遺伝学・生物学

9. Wang, S.Y., et al. (2013). "Phylogenetic relationships and polyploidization in the *Carassius* auratus complex." * Molecular Phylogenetics and Evolution *, 66(2), 350 - 357.

- フナ属の系統関係と倍数性に関する研究

10. Rylková, K., et al. (2013). "Phylogeny and biogeographic history of the cyprinid fish genus *Carassius*." * Molecular Phylogenetics and Evolution *, 69(3), 1031 - 1042.

- フナ属の系統と生物地理史

データベース・統計資料

11. FishBase. "Species in genus *Carassius*" www.fishbase.org

- フナ属各種の分布と生態情報

12. 農林水産省. 『内水面漁業生産統計調査』

- 日本の淡水魚の分布と生息状況

注記: 本記事は一般読者向けのエッセイであり、専門的な学術論文ではありません。記載内容は上記参考資料に基づいていますが、わかりやすさを優先して表現を平易にしています。

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