刀を置き、美を愛でる。武士たちが熱狂した「究極の推し活」
「金魚を眺める」とき、皆さんはどんな景色を思い浮かべますか? 縁日の賑わい? それとも、夏の午後の涼やかな水槽?
実は江戸時代、この小さな命に誰よりも情熱を注いでいたのは、あの「武士」たちでした。
刀から、金魚へ
戦のない平和な時代が続いた江戸。 かつて戦場で名を馳せた誇り高き武士たちは、意外な場所でその情熱を燃やしていました。それが「金魚の養殖」です。
当初は生活を支えるための「副業」として始まった内職でしたが、職人気質で凝り性な武士たちの気質が、そこに火をつけました。 「もっと美しい尾の開きを」「もっと優雅な背の曲線を」 彼らは、まるで兵法を極めるかのように、鉢の中の小さな宇宙に理想の美を追求し始めたのです。
究極の「推し」を作る情熱
今の私たちが、大好きなアーティストを応援したり、自分だけの「推し」を見つけたりするように。 江戸の武士たちにとって、金魚は単なる魚ではなく、自らの美学を投影する「究極の推し」だったのかもしれません。
特に「蘭鋳(ランチュウ)」などの品種が磨き上げられた背景には、一分の狂いも許さない武士たちの厳しい審美眼がありました。 命を奪う術(武術)を磨いてきた彼らが、小さな命を育み、その美しさを守ることに心血を注いだ……。 そのギャップに、私はなんとも言えない人間味と、平和への祈りを感じてしまうのです。
鉢の中に見つけた、自由な宇宙
厳しい身分制度やしきたりの中で生きた武士たち。 でも、鉢の中を泳ぐ金魚を眺めている時間だけは、すべての役割から解き放たれ、ただの「一人の人間」として、純粋に美しさに心動かされていたのではないでしょうか。
私たちJun * Juaneがレンズを通して捉える金魚の輝き。 それは、数百年前の武士たちが、汗を拭いながら鉢を覗き込み、愛おしそうに見つめていた輝きと、きっと繋がっているはずです。
安達喜之『金魚養玩草』(1748年):江戸時代の金魚愛好家たちの熱狂を伝える日本最古の飼育書。
鈴木克美『金魚と日本人』(講談社学術文庫、2019年):武士の内職から始まった金魚文化の変遷を詳しく解説。
吉田信行『金魚春秋 文化誌』(日本動物薬品、2014年):江戸から続く品種改良の歴史と日本人の美意識の記録。





