【金魚のまじない】第3回:海と山、各地に息づく不思議な言い伝え
金魚にまつわるまじないや信仰は、江戸のような大都市だけでなく、日本各地の村々にも独自の形を持って広がっていました。それぞれの土地の風土や守りたかったものに合わせて、金魚はときに予言者となり、ときに身代わりとなって、人々の暮らしに寄り添ってきたのです。
異変を知らせる静かな予言者
海に近い地方や地震の多い地域では、古くから金魚の動きを「自然の予兆」として読み取る習慣がありました。金魚が水面で激しく跳ね回ったり、逆に底の方でじっと動かなくなったりする様子を見て、人々は天気の急変や大地の揺れをいち早く察知しようとしたのです。
科学的な根拠を超えて、人々が金魚を信頼したのは、彼らが「水」という、命の根源に最も近い場所で生きている存在だったからでしょう。小さな鉢の中の揺らめきを、大きな自然の縮図として捉える。そんな謙虚な視線が、地方の暮らしの中には当たり前のように存在していました。金魚は、人間には聞こえない自然の声を届けてくれる、静かなメッセンジャーでもあったのです。
厄を肩代わりする、身代わりの赤
また、地方によっては金魚が「家族の厄を代わりに引き受けてくれる」という、切なくも温かな言い伝えも残っています。家族の誰かが病に倒れたとき、金魚がふと命を落とすと、それは金魚がその人の病や不運を背負って旅立ったのだと考えられました。
命を終えた金魚を丁寧に土に還し、手を合わせる。その行為は、単なる迷信という言葉では片付けられない、生き物に対する深い敬意と感謝の表れでした。自分たちの暮らしを守るために、小さな命が共にいてくれる。そんな実感が、日本各地に金魚を慈しむ文化を根付かせていったのです。
吉田信行『金魚春秋 文化誌』(日本動物薬品、2014年):日本各地に残る金魚の伝承や、災害予知に関する民俗学的なエピソードの記録。
『日本民俗学大辞典』:地域ごとの魚類に対する信仰心や、身代わり信仰に関する項目。
鈴木克美『金魚と日本人』(講談社学術文庫、2019年):観賞用だけでない、日本人の精神生活における金魚の役割についての考察。





