【金魚のまじない】第2回:離れがたい絆の代名詞「金魚のフン」
現代では、誰かの後ろをぴったりとついて回る様子を少し揶揄して「金魚のフンのようだ」と表現することがあります。しかし、この言葉の根底にあるのは、江戸時代の人々が日々、金魚という生き物をいかに間近で、熱心に観察していたかという、驚くほど純粋な視線でした。
観察眼が育んだ「一期一会」の絆
金魚のフンは、他の魚と比べても非常に長く、なかなか体から離れずに引きずって泳ぐ特徴があります。江戸の街角で、小さな器を覗き込んでいた人々は、その独特な様子を単に面白い現象として眺めるだけではありませんでした。彼らはそこに、切っても切れない深い縁や、片時も離れがたい人間関係の姿を重ね合わせたのです。
当時の川柳や笑い話の中では、この様子が「影の形に添うがごとし」といった、密接な間柄を指す言葉として、ユーモアたっぷりに使われ始めました。それは決して冷たい嘲笑だけではなく、生き物の習性をそのまま人間の愛おしい弱さや、執着心の表れとして受け入れる、江戸っ子らしい温かな「おかしみ」を含んだ視点でもありました。
言葉の裏側に流れる豊かな時間
私たちが何気なく口にしている言葉の裏側には、かつて鉢の中の小さな命とじっくりと向き合い、その一挙手一投足に人生の機微を感じ取っていた人々の、豊かな時間が流れています。たった一つのフンの行方にまで目を凝らし、それを言葉に昇華させた当時の人々の観察眼。それは、形を変えて現代の私たちが金魚を見つめる時の、あの愛おしむような視線へと繋がっているのかもしれません。
日常の何気ない光景を、誰かと誰かの「絆」として捉え直す。そんな優しくも鋭い感性が、この一風変わった言葉を今に伝えているのです。
吉田信行『金魚春秋 文化誌』(日本動物薬品、2014年):金魚の習性がどのように江戸の俗語や川柳に取り入れられていったかの変遷。
鈴木克美『金魚と日本人』(講談社学術文庫、2019年):庶民の観察眼が育んだ、金魚にまつわる言葉の文化史。
『江戸川柳辞典』:金魚を題材にした古い川柳における、比喩表現の用例。





