【金魚江戸噺】第一夜:見栄と琉金
皆様、ようこそお越しくださいました。 私、遊魚亭 潤妙楽が、江戸の町に暮らす金魚と人々の可笑しな物語を語ってまいります。
第一夜は、金魚の代名詞とも言える「琉金」にまつわるお話。 江戸の男のちょっとした「見栄」を、どうぞ覗いてみてください。
それでは、はじまり、はじまり……。
第一夜:『金魚の目利き』
えー、お暑い盛りでございます。 こんな日は、たらいの中でヒラヒラと泳ぐ金魚を眺めるのが一番の贅沢。 江戸の昔、金魚は「生きた宝石」なんて呼ばれましてね、庶民はガラスの鉢がないもんですから、上から眺めてその美しさを愛でたそうで。
特に「琉金」という金魚。あの丸いお腹に、長くたなびく尾びれ。 あれを眺めていると、悩みごとも水に流れていくような気がいたしますが……中には金魚を使って「見栄」を張ろうってな、おかしな御仁もいたようでございます。
「ご隠居!こんちは。……おや、また粋な鉢を置いてますな」
長屋の八五郎が、ご隠居の家に上がり込む。そこには、見事な赤い琉金が優雅に尾を振って泳しておりました。
「これかい?これはね、尾ひれが三つに分かれた『三つ尾』という、ちょっとした業物(わざもの)だよ。金魚ってのは、この尾の振り方一つで価値が決まるんだ」
ご隠居の自慢話を聞いた八五郎、すっかり羨ましくなっちまった。 「へへっ、あっしだってそれくらいの目利きはできますよ!」と、意地を張って飛び出したはいいが、手持ちの銭はほんのわずか。
そこへ通りかかったのが、天秤棒を担いだ金魚売り。 「金魚〜え、金魚〜!」
八五郎、一番安いタライの中を覗き込むと、一匹、お腹を上にしてプカプカ浮いている琉金がいる。 「おい、金魚屋。このひっくり返ってるのは、死んでるんじゃねえのか?」
金魚屋、ニヤリと笑って。 「おやおや、お客さん、目が高いねぇ!これはね、世にも珍しい『浮き寝(うきね)の術』を心得た金魚ですよ。普通の金魚は泳ぐのに必死ですが、こいつは悟りを開いてるから、水面に浮かんで空を眺めてるんですな」
「ほう、空を!そいつは風流だ。よし、買った!」
意気揚々と長屋に戻った八五郎、近所の連中を集めて自慢を始めます。 「見なよ、この金魚。空を眺める悟りを開いた金魚だぜ」
ところが、一人がボソッと言いやがった。 「おい、八公。これ、ただひっくり返って動かないだけじゃねえか。悟りどころか、ただの病気か、もう寿命だよ」
八五郎、焦って金魚を指先でツンとつついた。すると金魚、一瞬だけピリリと動いて、またすぐにお腹を上にしてプカプカ……。
「ほら見ろ!今、動いたぞ!」 「……でもよ、ずっとお腹を見せたままじゃねえか。格好がつかねえよ」
八五郎、苦し紛れにこう言った。
「いいんだよ。こいつは『腹を割って話せる』金魚なんだから!」





