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No.1042026.01.31

【金魚江戸噺】第十夜:蘭鋳(らんちゅう)の二面目

皆様、ようこそお越しくださいました。 私、遊魚亭 潤妙楽が語ります「金魚江戸噺」。今夜はついに二桁、第十夜でございます。

お相手は、金魚界の「大関」と謳われる蘭鋳(らんちゅう)。 背びれを持たず、どっしりと構えたその姿。江戸の旦那衆が、家宝にしてまで愛でたという究極の金魚をどうぞ。

それでは、はじまり、はじまり……。

第十夜:『蘭鋳の二面目』

えー、金魚の総大将といえば、この「蘭鋳」をおいて他にございません。 背びれをすっぱりと捨て去り、代わりに手に入れたのが、あのボコボコと勇ましい頭の肉瘤(にくりゅう)と、太鼓のような立派なお腹。 上から眺めれば、まさに水中に鎮座する「お奉行様」のような迫力でございます。

さて、ここにある長屋の大家、徳さんも、この蘭鋳に惚れ込んだ一人。 「いいかい、蘭鋳ってのは、泳ぎ回るもんじゃねえ。水の中に『座っている』その貫禄を拝むもんなんだ。これこそが、動じない男の鑑(かがみ)よ」

徳さん、毎日水槽の前に正座して、蘭鋳のその「いかつい顔」を感心して眺めております。 そこへ、お調子者の八五郎がやってきて、鉢の中を覗き込んで首を傾げた。

「大家さん、この金魚……なんだか、顔が怖すぎやしませんか。赤ん坊が見たら泣き出しますよ。それに、背びれがないから、なんだか『つるり』としてて、締まりがねえや」

徳さん、カッとなって言い返しました。 「八っつぁん、野暮を言っちゃいけねえ。無駄な飾りを捨てて、顔の凄みだけで勝負する。これこそが江戸の真髄よ!」

ところがその時、徳さんがうっかりエサを一粒、水面に落としました。 すると、あんなに威厳たっぷりだった蘭鋳が、お尻をフリフリと振って、必死になってエサを追いかけ始めた。背びれがないもんだから、お腹を左右に揺らしながら、実におかしな格好で泳ぎ回ります。

それを見た八五郎、お腹を抱えて笑い出しました。

「大家さん、見てくださいよ。あのお奉行様、エサ一つでなりふり構わず踊ってやがる。さっきまでの貫禄はどこへ行ったんです?」

徳さん、真っ赤になって、

「いいんだよ!こいつは『蘭鋳(らんちゅう)』っていうくらいで、食い物を見せると、すぐに『乱中(らんちゅう)』しちまうんだ!」