【金魚江戸噺】第四夜:金魚売りの口八丁
皆様、ようこそお越しくださいました。 私、遊魚亭 潤妙楽が、江戸の町に暮らす金魚と人々の可笑しな物語を語ってまいります。
第四夜は、江戸の夏の風物詩「金魚売り」のお話。 「きんぎょ〜、え〜、きんぎょ〜」というあの声に誘われて、ついつい財布の紐を緩めてしまった男の、ちょいとマヌケなやり取りをどうぞ。
それでは、はじまり、はじまり……。
第四夜:『金魚売りの口八丁』
えー、江戸の夏といえば、どこからともなく聞こえてくる「きんぎょ〜、え〜、きんぎょ〜」というあの声。
天秤棒を担いで、真っ赤な金魚を揺らしながら歩く姿は、見てるだけで涼しくなるもんです。
さて、ここにある長屋の八五郎。
これがまた、新しいもの好きの、おだてに弱い男で。
金魚売りの威勢のいい声に呼び寄せられて、表へ飛び出しました。
「おじさん、いい金魚はいるかい?」
「へい、らっしゃい!お客さん、目が高いねえ。見てな、この金魚。こいつはね、『福』を呼ぶって評判の特別な金魚なんだよ」
金魚売り、タライの中のなんの変哲もない和金を一匹指さして、もっともらしい顔で言いやがった。
「見てごらん、この尾ひれの動き。こいつが泳ぐと、福が舞い込むってんで、お武家様もこぞって買い占めてる代物だ。今日はお客さん、男前だから特別に安くしとくよ」
八五郎、その「男前」と「福を呼ぶ」にすっかり乗せられちまって、なけなしの銭をはたいて一匹買い、大事に長屋へ持ち帰った。
「いいかい金魚。おめえが泳げば福が来るんだ。さあ、どんどん泳いで、あっしを金持ちにしておくれ」
ところが、鉢に入れた金魚、どうしたことかピクリとも動かねえ。
エサをやっても無視、水を揺らしても底でじーっとしている。
「おかしいな。福を呼ぶどころか、見てるこっちが不安になるぜ」
そこへ通りかかったご隠居が、鉢の中を覗き込んで、おかしそうに笑い出しました。
「八さん、こりゃ金魚売りにしてやられたね。この金魚、よく見てごらん。尾ひれが少し曲がってて、泳ぐのが人一倍苦手なんだよ」
「ええっ!じゃあ、あの金魚売り、嘘を言いやがったのか」
八五郎、慌てて表へ飛び出して、まだ角を曲がったばかりの金魚売りを捕まえました。
「おい!福を呼ぶどころか、こいつは泳ぐのもやっとじゃねえか。一体どういうことだ!」
すると金魚売り、少しも慌てず、ニヤリと笑ってこう言いました。
「当たり前だよ。こいつは『福(服)』を着てるから、裾(すそ)が乱れるような泳ぎはしねえんだ!」
【潤妙楽のあとがき】
江戸の金魚売りは、ただ魚を売るだけでなく、その「口上(こうじょう)」で客を楽しませる芸人でもありました。
泳がない金魚を「品が良い」と言い換えるその機転。
騙された八五郎も、最後にはその言い訳の鮮やかさに、つい笑って許しちまったんでしょうな。





