【金魚江戸噺】第六夜:オランダ獅子頭(ししがしら)の出自
皆様、ようこそお越しくださいました。 私、遊魚亭 潤妙楽が、江戸の町に暮らす金魚と人々の可笑しな物語を語ってまいります。
第六夜は、金魚界の長老のような、立派な肉瘤(にくしゅう)が自慢の「オランダ獅子頭」のお話。 「異国のもの」と聞くと、つい背伸びをしたくなる江戸の連中の、おかしな一席をどうぞ。
それでは、はじまり、はじまり……。
第六夜:『オランダ獅子頭の出自』
えー、江戸の連中ってのは新しいもの、珍しいものが大好きで。 長崎から入ってくる舶来品(はくらいひん)を「オランダ物」なんて言って、猫も杓子もありがたがったもんでございます。 この「オランダ獅子頭」もその一つ。 頭にモコモコとした赤いコブ、ヒラヒラと長い尾ひれ。その姿が、まるで異国の獅子舞のように見えるってんで、この名がつきました。
さて、ここにある長屋の与太郎。 金魚売りの親父から、「こいつはオランダから来た、殿様しか飼えねえような金魚だ」と吹き込まれて、無理して一匹買い求めました。
「いいかい、こいつはオランダ生まれなんだ。言葉だって江戸っ子とは違うんだぜ。見てな、この頭のコブ。オランダの知恵がぎっしり詰まってるに違いねえ」
与太郎、水槽のオランダ獅子頭をこれ見よがしに長屋の連中に見せびらかします。 そこへ隠居が通りかかって、呆れて言いました。
「与太郎、お前さんは騙されてるよ。こいつは確かに珍しいが、生まれは中国さ。長屋の奴らが、珍しいものをなんでも『オランダ』と呼んだだけのことなんだよ」
「ええっ!オランダじゃねえんですか? じゃあ、この頭のコブも、オランダの知恵じゃねえんで?」
「当たり前だよ。ただの顔つきさ。そんなにがっかりしなさんな」
与太郎、しばらく金魚をじーっと眺めておりましたが、やがてニヤリと笑って、水槽を抱え込みました。
「なんだ。オランダ(阿蘭陀)じゃねえとしても、こいつの立派なコブは、誰にも渡さねえ『おらんだ(俺のだ)』!」





