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No.1022026.01.31

【金魚江戸噺】第八夜:丹頂(たんちょう)の堪忍袋(かんにんぶくろ)

皆様、ようこそお越しくださいました。 私、遊魚亭 潤妙楽が、江戸の町に暮らす金魚と人々の可笑しな物語を語ってまいります。

第八夜は、真っ白な体に真っ赤な頭。鶴のようなおめでたい名を持つ「丹頂」のお話。 頭に血が上っているようなその姿を見て、いらぬ心配をした男の、おかしな一席をどうぞ。

それでは、はじまり、はじまり……。

第八夜:『丹頂の堪忍袋』

えー、江戸っ子ってのは気が短くていけません。 ちょっと肩が当たった、言葉が足りねえと言っちゃあ、すぐに顔を真っ赤にして角(つの)を立てる。

さて、ここにある長屋の熊五郎。これもまた、火のつくような短気な男で。 お隣のご隠居が新しく買ってきた「丹頂」という金魚を覗き込みましたが、どうにも様子がおかしい。

「おい、ご隠居。この金魚、誰と喧嘩しやがったんです。頭がこんなに真っ赤に腫れ上がって……。さては、水槽の中で他の奴にいじめられたんですかい」

「熊さん、そうじゃないよ。これは丹頂といって、この赤い頭が一番の自慢なんだ」

ところが熊五郎、納得がいかない。 「冗談じゃねえ。こんなに頭に血が上ってる金魚、見てるだけでこっちまでイライラしてくる。おい、金魚!そんなに怒ってばかりいねえで、少しは堪忍(かんにん)しやがれ!」

熊五郎、金魚に向かって説教を始めましたが、丹頂は相変わらず、その赤い頭をゆらゆら揺らして、どこ吹く風で泳いでおります。

「見てな、ご隠居。あっしが意見してるのに、こいつは無視して泳ぎやがる。あー、腹が立ってきた!おい、その赤いのは、そんなに怒りが溜まってんのかい!」

熊五郎が水槽を叩かんばかりに詰め寄ると、ご隠居が呆れて言いました。

「熊さん、怒ってるのはお前さんの方だよ。この金魚の頭が膨らんでるのは、怒ってるんじゃなくて、福が詰まってるのさ」

熊五郎、鼻を鳴らして、

「へえ。道理で、いくらあっしが怒鳴っても『角(つの)』を出さねえで『瘤(こぶ)』を立ててやがるはずだ!」